『本当に美味しいものを食べさせてくれる料理店』千葉隼人
プロローグ
仙台市青葉区国分町。そこは東北一の歓楽街である。夜になれば飲み屋の歓声、風俗やキャバクラの客引きなどで、耳が痛くなる程だ。東北人の喜びと怒りと悲しみと楽しみ、そういった感情をぎゅうぎゅうに押し詰めたような街、それが国分町だ。しかし、400メートル四方程度の区画を出れば、休日でも殆ど人通りがないのもまたひとつの特徴である。この国分町の奥まった場末の一角には『本当に美味しいものを食べさせてくれる料理店』という店がある。ここの従業員は僅か二人。ウェイターとコックだけだ。真っ赤な内装には、ところどころ蜘蛛の巣がかかっている。明かりは裸電球一つだけ。テーブルは一つだけ。イスも一つだけである。明らかに奇妙だ。外装も古臭い。外に掛かっている薄汚れた看板には、僅かに光を放つネオンが縁取られており、ようやく文字が読める程度である。この看板が無ければ、廃墟だと思われても仕方が無いかもしれない。
さて、従業員は2人いるようだ・・・。
暇を持て余したように、丁寧にグラスを磨きながらコックが言う。
『今夜は誰か来そうですかね。』
ウェイターはタバコをくゆらせながら、ゆったりとした口調で返す。
『さあどうかね』
『まあいきなり大勢の人にこられても困りますけどね、ウチみたいな料理店だと。』
『ま、そうだな・・・』
二人は顔を見合わせて、不敵な笑みを浮かべた。
・・・今夜は幾人の人が、本当に美味しいものを口にすることができるのだろうか。
あきらの場合
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