『桃太郎』果たされぬ口約束


◎もくじ
はじめに
<大人の事情編>
<不透明な金の流れ編>(今回省略)
はじめに
よく見かける桃太郎は、鬼退治とか言って暴力的で子供の教育には適しません。だから、私はこの度よい子のための『新説 桃太郎』を作ろうと躍起になっています。マンドリン部の定期演奏会で構想を練りました。
<大人の事情編>
昔々、ある所におじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは洗濯に行くと思いきや、おじいさんが山に行ったのを見計らって別の男を家に連れ込んであんなことやそんなことやましてやこんなことをしていました。
 ある日のこと、おばあさんは連れ込んだ男との子供を身ごもってしまいました。そして、それからしばらく経ったある日の夕方、おばあさんは男の子を出産しました。おばあさんと連れ込んだ男は慌てふためきました。救いはまだおじいさんが芝刈りから戻ってきていないことです。ここは頭の良いおばあさんです、ある考えが浮かび、外に出て行きました。
しばらくすると、おばあさんはどこからともなく巨大な桃を持ってきました。
『もうこうするしか他に手がない。まもなくおじいさんが帰ってくるから、この巨大な桃の中に赤ん坊を隠そう』
おばあさんは赤ん坊を桃の中に押し込め、連れ込んだ男を帰らせました。連れ込んだ男と入れ違いにおじいさんは帰ってきました。
『今日も疲れたのう。おお、なんじゃこの巨大な桃は? 夕食に食べようではないか』
おじいさんは巨大な桃を真っ二つに切ろうと刀を振りかざしました。おばあさんはこれでは桃の中の赤ん坊も食べやすいサイズになってしまうので、
『おじいさん、中に人間が入っているといけないので、静かに切ってくださいな』
と苦しい理由付けで促しました。おじいさんが桃を切ると、そこからはなんと赤ん坊が出てくるではないか! 普通ならそんなことありえるはずがないので疑うはずなのですが、おじいさんは、
『子供がいない我が家に天が授けてくれたのか。名前は桃から生まれたから桃太郎としよう』
などと言って不思議がりすらしません。おばあさんはホッと胸をなでおろしたことは言うまでもありません。
 月日は流れました。おばあさんは突如心臓発作で死去しました。おじいさんはここぞとばかりに新しい妻を迎えました。おじいさんも芝刈りと称して外で不順異性交遊に出かけていたことがしばしばあったのです。前妻の不義の子である桃太郎は、成長するにつれ、家に居場所がないことを感じ始めていました。
『お前が前妻の望まれぬ子だということぐらいずっと前からわかっておるぞ』
とおじいさんに面と向かって言われたことすらありました。そして、だんだん家に居づらくなり、とうとう家を出ることになりました。家を出る桃太郎におじいさんも後妻も一言たりとも声をかけることはありませんでした。
 家を出ましたが住む場所がありません。なぜなら、この地球上で国有地を合わせ、誰の土地でもない土地なんて存在しないからです。アパートなどを借りるにもお金が必要です。おじいさん夫婦は桃太郎をいまいましく思っていましたので、桃太郎が家を出る時も、きびだんご以外何も持たせてくれなかったのです。そのきびだんごさえも、トリカブト入りの恐れがあります。桃太郎は知っていました。自分が今まで住んでいた家には、様々な毒物が置いてあったことを。ただ、家でそれを使ったら、あまりにもあからさまだから、今まで使われることがなかったということを。
 何か物がない時は、他人から奪うしかありません。住む土地がなければ、土地を奪うしかありません。桃太郎は必死で考えました。そして、たどり着いた結論が、鬼ヶ島に住んでいる住人を始末して、その地を乗っ取ることです。鬼ヶ島は名前はあれですが、普通に人々が穏やかな暮らしを営んでいる離島です。まさか鬼がいるなんて愚かな考えに浸っているわけではありませんよね? 鬼がいたら勝てるわけありません。ところで、この鬼ヶ島を乗っ取る計画に一枚噛んだのがサル、キジ、イヌです。桃太郎は、彼らに命じて、"鬼ヶ島は鬼がはびこる恐ろしい島だ"という根も葉もない噂を流させ続けました。そう、彼は鬼ヶ島に攻め込む名目がほしかったのです。桃太郎は頃合を見て宣言しました。
『これから、鬼ヶ島に鬼退治に出かける!』
桃太郎は一躍時の人となりました。
 ある日のまだ太陽が昇らない時間に、桃太郎は完全武装で鬼ヶ島に渡りました。日本一と大きく書かれた旗を持ち、頭には日の丸のハチマキ、左腰に差した刀、右腰にきびだんごを入れた巾着袋という服装は、マスコミ向けのパフォーマンスであり、実際鬼ヶ島が近づくと、全身迷彩服に赤外線スコープ、マシンガンという装備になっていました。そもそも、きびだんごは鬼ヶ島に向かう頃にはカビていて、食べられる物とは別な物に変質し、お腰に着ける必要すらありませんでした。さらに、人間一人と動物三匹だけで攻めるのは、常識的な考え方が少しでもできれば無謀だとわかります。当然、桃太郎もそれに気づいていて、それでも人間一人と動物三匹で攻めるように見せたのは、話を少しでも美談にするためでした。さて、実際はどうだったのでしょう? 実は桃太郎は、この計画が始まった当初から、たくさんの強面を雇い、秘かに鬼ヶ島に渡らせ、潜伏させていました(彼らを雇う資金はとりあえずキジが払いました)。
 鬼ヶ島に上陸した桃太郎は、潜伏させていた筋者と連絡を取り、ある場所で集合しました。その彫り物のあるお方たちは、皆それぞれチャカや得物を携帯してくれていて、彼らは仁義なき戦いをやってくれそうでした。
 鬼ヶ島には、島自体があまり大きくないこともあってか、さほど大きくない集落が一つあるだけでした。まだ、人々が静かに寝静まってる頃、桃太郎はやく……っといけね強面たちや動物をまとめ上げ、その集落に攻め込ませました。そこからは阿鼻叫喚の嵐でした。ほとばしる銃声、あちこちで響き渡る叫び声、桃太郎はたまりませんでした。桃太郎は叫びました。
『火を放ていぃ』
桃太郎は知っていました。赤子一人生き残らせてはいけないことを。目撃者を一人でも生き残らせてしまうことは、この計画自体を破綻させかねない重大な過ちであることを。いや、そもそも桃太郎が人の道を踏み外した行為が大好きだったからこう命じたのかもしれません。家々は真っ赤に燃えました。しかし、ここで抜け目ない指示を桃太郎は出さねばなりません。当初の契約通り、桃太郎は金目のものを運び出してから火をつけるように徹底し、なおかつその金目のものを桃太郎に差し出すように義務付けさせねばなりません。
 空が明るくなってくる頃には、あらかた片付きました。桃太郎は鬼ヶ島の人々が老後の蓄えに取っておいた金銀財宝を根こそぎ奪い去り島を後にしました。また、帰りに強面たちが乗る船はあの有名な土船で、沖に出るとまもなく沈みました。これで口封じができたのです。
 内地の人々はそんな実情も知らず、桃太郎の生還を喜びたたえました。おじいさんは財宝を引っ張ってくる桃太郎を見ると、すぐに後妻を家から追い出し、桃太郎を温かく迎えました。そして二人はいつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし。



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